第４回いちごつんでください　一首目

市場まで粒マスタードを買ひにゆく、はずが途中で飲んぢやつてるの／秋月祐一

いっそもう何かの小さな粒になり君の奥歯に挟まっていたい／とも

キバを抜かれたドラキュラのごと夜の街をさまよふ奥歯ぬかれてワタシ／秋月祐一

ドラキュラじゃなくてよかったいつまでも貴方のうなじ噛んでいられる／かや

いつまでもやさしいままであったから勿忘草も咲いたのでしょう／もくめ

花言葉なんて知らないあの人にこつそりわたす勿忘草を／秋月祐一

噛み猫はいけませんとぞ保護猫にしつけしてゐる新しき日々／秋月祐一

奥歯にはハッピーパウダーカプセルが仕込んであって今から噛みます／岩瀬百

ビーフシチューの一晩かけた仕込み時間なのにあなたは５分で食べる／秋月祐一

おわりの日世界をハッピーパウダーの
雪がつつむと預言者は言う／毛糸

手についたハッピーパウダーなめてゐる外は粉雪みんな粉雪／秋月祐一

預言者の言葉を拾うためまずはしずかに彼女／彼へ近づけ／寿司村マイク㌨

パン屑を拾う私は魔女だろうお菓子の家で吾子が微笑む／飛和

魔女になるのが憧れで『魔女図鑑』携帯してた十代のころ／秋月祐一

鍵を拾ふ。どこにあるのか分からないけどこの鍵で開くドアがある／秋月祐一

キッチンに粒マスタードの瓶を置き祖母の手書きのレシピをなぞる／anzu

一斉にファンファーレは鳴り響き祖母の逝く日の空は晴れやか／きわ

羽としてセーラーの襟　ファンファーレみたいに笑う君の背中に／安住八重

永遠に続くといいね夏休み　晴れやかな午後、鳴るファンファーレ／秋月祐一

一心に練習してきたファンファーレ　おい、そこは「ソ」だ、今のは「ファ」だぞ／加藤万結子

吹奏楽部員の汗と涙とが染み込んでゐるザ・ファンファーレ／秋月祐一

羽のあるいきものだつたんだね君は　どほりでつかまらないと思つた／秋月祐一

ところどころに日録風なことなども記され母の手書きのレシピ／秋月祐一

名前のない存在として振り払う　さきまで雪と呼んだ粒たち／北谷雪

写真家にとり雪の日はお祭りだビニ傘さして街へ出てゆく／秋月祐一

振り払う／振りほどくしかできなくて類語辞典のようにさよなら／ツマモヨコ

類語辞典で「愛」と「恋」との差について調べてみたけどよく分からない／秋月祐一

鼻唄は五線譜の外まで飛んで途中できみに拾われている／とわさき芽ぐみ

五線譜の外まで飛んだ音符たち拾ひあつめる秋の放課後／秋月祐一

真っ青な空に電線横たわるいいか、五線譜ならばゆるせる／まゆだま

電線のある風景よみなしたふ魚喃キリコいまどうしてる／秋月祐一

大人ぶり粒マスタード選んでも代わりに食べるあなたはいない／帯向ねこ

あなたから届いた不幸の手紙でも角のない字に心ときめく／mashiko takumi

角のない丸文字で紙一面に「好き／死ね」と書き連ねた妹よ／秋月祐一

粒マスタードわざわざ買ひに行きしかも迷子になるあなたつて人は／秋月祐一

右耳のピアス一度で通せぬ日
迷子になりたい いつもの道で／ぴぃねぃ

いつもとちがふ角を曲がつて見つめてる「迷子教室、こちら」の看板／秋月祐一

看板のなかで移ろう四季があり丸みを帯びてゆくゴシック体／とわさき芽ぐみ

さはれる彫刻展でいちばん気に入つた丸みを帯びた木彫りの猫よ／秋月祐一

ツッコミの光るお前を殺す夢「粒マスタードの瓶を舐めるな」／てんぺん

シーグラスあつめてゐますすこしづつ波にもまれた瓶のかけらを／秋月祐一

うっすらと月の光を集めるが輝くことのなきシーグラス／白糸雅樹

シーグラスおまへは何処からきたのかと来歴きいてみたくなるんだ／秋月祐一